リーダー・経営者のための内観
始めに、人材育成や企業研修として内観の導入を検討するにあたって、誤った認識やイメージをしていることが多くあります。特に多く勘違いされている内容を下記にまとめてみました。

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内観をするにあたって本人の自主性が最も重要です。強要、強制は逆効果になります。
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内観では外部からの刺激情報(テレビ、電話、インターネット、書籍)に触れることは出来ません。また景色を見たり、散歩をすることは無く、面接者以外との会話や接触もしません。
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宗教や洗脳と誤解していることも多くあります。内観においては特定の「教え」も「答え」も「成功」も「合格」も、また経典もありません。面接者は随行人・世話人であり、先生でも師匠でもありません。
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反省や感謝、また倫理観や道徳観の強要を目的としているわけではありません。
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瞑想法の一種ですが、ヨガ、座禅、呼吸法などとはアプローチが違うことから一線を画しています。
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イメージや感覚的なものではなく、高度な思考的作業の積み重ねと深い情動体験を伴っています。
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数多くある自己観察、自己発見の中の一つの方法であり、性格や特性上、適応できない人もいます。(万人に効果が表れるわけではありません)
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3日4日では内観になりません。
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本人の取り組み次第で得られる効果も変わってきます。
次によくあるご質問の中からいくつかお答えさせていただきました。
Q:内観を会社に取り入れる利点はなんですか?
社員の幸せが企業経営の目的の一つであるという視点を持ったリーダーの方々ならば、社員の幸せを願って導入をされるのではないでしょうか。もう一つは組織としてのチームワーク、結束が強くなるという事です。
迷惑をかけたことを調べるという作業は相手の立場に立たないと分からないことです。相手の立場で物事を捉える訓練をすることは「共感力」を高めるトレーニングでもあると言えます。
この共感力というものは対人関係を良好にするためのスキルの一つで、この力を持っている組織はチームワークが良く、生産性も向上していくことは言うまでもありません。
内観によって相手の立場を理解することが出来るようになる方は多くいらっしゃいますし、その視点を持ったほうが人生や仕事における人間関係が上手くいくという確信を得た内観体験者も数多くいます。
組織力の要として「相手を思いやる」「感謝・報恩の気持ち」「責任感がある」これが浸透している組織は現代の厳しい社会の荒波をチームワークで乗り越えていくことができるものと考えております。
また、チーム内だけのことではなく、お客様の立場に立って考えることが出来るから言葉尻に振り回されることなく、冷静に対応できたり対策を立てることが出来るようになります。お客様からのクレームや要望の本質を掴むことが出来るようになるからです。
Q:社員・部下に内観をさせたいのですが。
内観の効果が最大限に発揮されるのは本人の自主性の有無に大きく関係しています。「会社のため」ではなく「あなたの幸せのため」に内観を勧められてはいかがでしょうか。
当研修所の経験では経営幹部自らが先頭をきって研修を受けたことによって、社風・業績がガラリと変わった事例もございます。そのようなリーダーの姿勢を社員が追いかける形で自然に企業経営・社風に取り入れられると効率的、効果的だと感じております。
これは家庭においても共通しておりますが、不登校のお子さんをお持ちの親御さんが、子供ではなく自ら内観をしたことでお子さんへの接し方が変わり、お子さんが元気になられたという事例も数多くあります。
詰まる所、相手が問題だと思い込んでいた自分の問題に気付いたということでしょう。
Q:リーダーが内観するとどうなるのでしょうか?
人としての「成長」、言い換えれば人間としての器が大きくなります。企業の発展は社員の成長と比例しているという言葉がありますが、何より経営者・リーダーの器、つまり人間力にかかっていると言っても過言ではないでしょう。
経営者・リーダーとしての気質を身につけることが内観では可能であると思います。謙虚。共感力・責任感がある。愛情深い。客観的視点で現実・事実を把握し冷静な判断ができる。いかなる逆境でも感謝・報恩の姿勢で物事に取り組める。このような人間力を高める訓練がたった一週間で出来るのです。
特に、客観的に物事を見る「眼」を養うこと、事実をありのままに見る訓練ができることも内観研修の重要な要素です。様々な人へ影響力を与える立場の方や、経営者などのリーダーシップを発揮して物事を判断しないといけない立場の人の場合、難しい判断を求められることも多いと思います。
直面した課題の本質を捉え、企業活動の上で生じる様々な問題への対応や、私欲や誘惑に負けない経営理念に沿った正確な判断をするためには、事実をありのままに見る目・客観的視点がやはり重要になってきます。またその判断に責任感を持って、自らを律しながら取り組むことが必要になってきます。
内観の創始者、吉本伊信先生は内観研修所に従事する以前はレザークロスの卸問屋を昭和18年から経営しておりました。その期間わずか10年ほどでしたが、有能な社員が内観法によって育てられました。お陰で全国に支店ができ、社員数も180名に拡大しました。引退時には全国の支店長12名を集め、分離独立の形を取りました。吉本の理念は12人の後継者によって以後新たな展開をしていくこととなります。
組織を継続し大きくするのはやはり人間の成長だと言うことを体現しているのではないでしょうか。
※現在はシンコールグループとなりましたが、「シンコー」という社名の由来は信仰深かった吉本伊信の「信仰」からきています。(詳しくは「シンコー株式会社」のホームページをご覧ください)
最後に
皆様のチームの中に被害者意識の強い方はいっらっしゃいませんでしょうか?
被害者意識が強い傾向の人は人生を幸せに過ごすことができません。被害者意識の果ては攻撃的・他罰的になったりします。
昔、道を間違えた運転手をボコボコにした議員さんがおりましたが、「運転手が道を間違える」⇒「私の時間が奪われた」⇒「奪ったのは道を間違えた運転手」⇒「あいつが悪い」⇒「私が被害者」⇒「だから罰を与えるのは当然」⇒「このハゲー!!」となります。それからさらに悲劇のヒロインとして振る舞うことで同情を買おうとして余計に問題を大きくしてしまう人もいます。そういった人は大抵「雲隠れの術」を使い、問題から逃避しようとします。

このように自分が上手く行かない根源には被害者意識があるのです。相手のせいで幸せになれないと思っているので、その説を証明するためには自分が幸せになってはいけないのです。
自分が幸せになってしまうと相手のせいで自分が不幸になっているという説が崩れるからです。
「自分が幸せになること」よりも「被害者である自分が正しいという事を証明する方が大事」だと思っているのです。だから幸せになれないのです。
逆にそのような被害体験が反骨精神となって社会で成功している経営者の方も多く見受けられます。そのようなリーダーの場合、辛い体験(被害体験)が成功体験と結びついているので、社員にも同じような体験を強いることがあります。
自分の色眼鏡で他人を育てようとするので、根底の部分では相手の性質を理解していません。荒れ果てた乾燥地帯で稲作を試みるようなものです。「なぜ育たないんだ!」「これが正しい方法だ!」「俺はこうして成功したんだ!」となかなか育たない芽に愛情深く叱咤激励を飛ばしているのです。

内観中、自分の被害体験や成功体験を「迷惑をかけた」という客観的視点から調べるという状況に置かれたとき、自らの人格や人生を否定されたように感じるかもしれません。内観において一番辛いのはこの部分です。3~4日目で多くの人がこの葛藤の壁につまずき、人によっては自己発見の道への歩みを止めてしまうことがあります。
しかし「具体的な事実を見ていく」「相手の立場になって考える」というポイントをしっかり押さえて内観を深めていくと、突然自分を苦しめていたものから解放されたり、自分の殻や限界を突破できる気づきの瞬間が来るのです。
そこまで辿り着くのにやはり3、4日では無理があるでしょう。一週間真剣に内観を進めてもギリギリ辿り着けるかどうかです。多くの社員さんの人生を背負った経営者の皆様にはどうか彼らを導けるよう内観をしていただきたいと心から願っております。

