『内観法』とヨガの『内観』は全く別のもの!?
内観の歴史は1937年(昭和12年)に吉本伊信先生が「身調べ」(悟りを開くための修行法で現在の内観法の基礎)から秘密色、苦行色、宗教色を除き、万人向けのものとした修養法として普及を開始し、1941年(昭和16年)に内観法という言葉が使われ、ほぼ現在の方法(内観三項目や集中内観研修)が確立されました。
その後、内観学会が発足し内観の普及と研究が続けられています。また、内観は日本発祥の心理療法として医療の世界へ展開し、内観医学会が発足。欧州や欧米、中国など世界各地に内観法は普及され、国際内観療法学会が開催されるなど日本発のnaikanは世界的に広がりを見せています。
実はこの「内観法」とヨーガなどで言われる「内観」は手法が異なるという事をご存じでしょうか。また「白隠禅師の内観」や「ヴィルヘルム・ヴントの内観」等その他にも全く異なる手法や使用方法でも内観と称するものがあるのです。当研修所が扱う内観を敢えて「吉本内観」や「内観療法」と呼ぶのはこのためなのです。
ヨーガで言われる内観とは?
ヨーガをしている際に「自分の内側に意識を向けて」「自分の内側を観察しましょう」「自分と向き合う」「自分と対話する」「身体と心の声を聴く」など聞いたことはありませんか?または、呼吸を整えながら「外側に向いている意識を内側に向けてみましょう」と促され、身体や心の状態を自分の感覚で感じたり、観察することをヨーガでは内観だとされているようです。
つまり自分の意識や感覚を中心に自らの身体や心と自己対話するという意味です。これは動作法という身体的アプローチの心理療法と呼吸法を上手く取り入れた方法と言えるのではないでしょうか。
ヨーガ教室での指導やネット上では内観のやり方を以下のように説明しています。
内観のやり方
ステップ1 呼吸の流れを観察する
呼吸が整い、深まってきたら、呼吸と共に、呼吸の流れに目を向けましょう。鼻の内側、喉、胸、背中、お腹、手足の先まで全身に流れる様子を観察します。どんな感じがしますか?温かい、ひんやりする、なめらか、ざらつく、滞りなくスムーズ、詰まりがあるなど、「良い」「悪い」のジャッジをせず、感じたことを受け止めてみます。
ステップ2 身体を観察する
呼吸が全身に行きわたったら身体の状態に目を向けます。表面だけでなくできたら筋肉や骨、血流など、実際には見ることができないところまで意識します。痛みや違和感の有無も併せて観察しましょう。頭、顔、肩、胸、肋骨、背中、背骨、腰、股関節、お尻、足など、疲れ、不調がある部分は余分な力が抜けきれず緊張している場合があります。違和感がある部分には、特に意識して呼吸をたっぷり送り込んでみます。吐く息と共に緊張が和らぐかどいうか、動きやすさ、可動域はどうかその変化や様子を観察しましょう。
ステップ3 心を観察する
呼吸や身体の観察ができたら心にも目を向けましょう。呼吸を深めながら、実際にポーズをとってみて何か変化を感じますか?簡単なポーズこそ、呼吸を通して感じることをそのまま素直に受け止めてみます。具体的に言葉にする必要はありません。穏やかなのか不安を感じるのか、心が軽くなるのか重みがあるのか、柔らかいのか緊張があるのかなど、まずは気づきを大切にします。気づいたことは受け止め、更に深く観察を続け、新たな気づきが出てくるかどうか、なんども繰り返し続けます。
また、別のヨガのサイトでは内観を以下のように説明しています。
内観とは
筋肉、血流、神経、意識など、自分が今どうなっているのかを感じていくことを内観、自分を観ていくということになります。まずは、今自分の身体の中で、痛いと感じているところはありませんか?肩がこって痛い、生理痛でお腹と腰が痛いなどです。そこから次に、もっと具体的に肩のどの筋、筋肉が痛んでいるかを細かく感じ取っていきます。もし、痛みが無い場合は、呼吸をしてどこが動くか、どこが動いていないか、どこに力が入っているか、どこの力が抜けているかを感じてみてください。
内観によって分かること
人はエネルギーの容れ物、エネルギーそのものだということが分かります。そのことに気が付くと、自然とも同等で、エネルギーを交換して生きていると言うことが分かってきます。自分の中を見ていくことで、取り巻くものとの関係が変わってきます。
内観とヨガ
ヨガは内観があるからこそヨガなのです。内観はヨガのポーズを行っている時、その動きがどのような生理現象を引き起こすのか、またそれによって、身体と心がどう変化するのかを感じ続けることです。内観が進み、自分を感じて観察する視野が広がれば、ヨガをより深く知り、感じていくことが出来ます。
内観の上達方法
内観を上達させるには、インナーマッスル(身体の内側の力)を意識するようにします。インナーマッスルを意識することで、表面の力みを抜くことが出来るようになり、よりリラックスした柔らかく優しい動きへと変化していくことができます。ポイントは、少し離れたところから自分を観る意識をもつこと。少し引いて、起こっていること、現象を柔らかく受け詰めること。この意識は日頃から持ち続けます。そうすることで、十分に客観的に物事を見ることが、自然とできるようになります。
内観のステップ
0.特にヨガ的な内観を行わない(有酸素系フィットネス)
1.肺の拡大と収縮を内観
2.呼吸筋などのインナーマッスルの内観
3.血液と神経の内観
4.各チャクラの内観
5.中枢神経の内観
6.内分泌バランスの統制と内観
7.虚(受動的な合一)の内観
8.空(能動的な合一)の内観
9.無との合一
10.無との融合
このように多くのサイトでヨーガの内観が分かりやすく説明されているので、気になった方は是非検索してみてください。
では、内観法(吉本内観、内観療法)とどのような点が違うのか、その方法と仕組みについて触れてみたいと思います。
内観法は感覚的なものではなく高度な思考作業である
内観法は母親をはじめ、身近な人に対する自分を3つの観点から振り返る作業をします。3つの観点は内観三項目と言われ「してもらったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたこと」にまつわる記憶を3年ごとに区切りながら幼少期から現在まで思い出していきます。



その際ポイントとなるのが、「具体的な事実を」「相手の立場に立って考える」ということです。一言で言うと非常に簡単なように思えますが、このポイントを抑えて3つの観点から自分の歴史を振り返れる人はまずいません。内観法とは「具体的事実を基礎に他者の立場に立って自分を省みる」思考的な作業なのです。

今の自分の意識や感覚を中心に自らの身体や心と自己対話するヨーガの内観に対し、内観法は主観的な感覚や気持ち・感情、イメージ、さらには一般的な常識やあるべき論も必要ではありません。「ああだったかもしれない」「こうだったら良かった」というあいまいな認識や自分本位の想像も一切排除していきます。
「過去の具体的な事実」を基に自分以外の他者の立場に立って自分を振り返る「他者視点」「客観性」を重要視し、「ありのままの事実」つまり「その時そこにあった現実の自分の姿」を直視することが求められます。
一言で言うなら心や身体と対話するのがヨーガの内観であり、自らのあり方・生き方を問う作業が内観法(吉本内観)なのです。
近年流行しているマインドフルネスの「今、ここ」という感覚ではなく「今の自分を作り上げたのは過去の自分の行いの結果である」という逆算的な視点も内観法(吉本内観)の特徴かもしれません。
内観法(吉本内観)は苦行色を取り除いたとされていますが、内観法(吉本内観)によって「自分を知る・受け入れる」というのは現代の人、特に我の強い人や、プライドの高い人、こだわりや思い込みの強い人にとっては少々辛いことかもしれません。内観法とは自己中心的な自分に気付き、周囲を振り回している自分自身の行いを見つめ、謙虚で自立した人格形成を目指す修養法なのです。

