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面接者紹介

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沖縄内観研修所 所長
​平山 元 昭和59年生まれ
​日本内観学会理事・日本内観研修所協会事務局
面接歴14年
資格:​認定内観面接士
沖縄県南城市(旧:知念村)出身。沖縄国際大学法学部地域行政学科卒業。

地元企業に就職後、実父の死をきっかけに、働く意味や生きる喜び、死との向き合い方を考えるようになる。退職後はNPO法人職員として県内各地のまちづくり事業に従事するが、27歳の時に白金台内観研修所で初めて集中内観を体験。

その後、家業の沖縄内観研修所を継承するため地元に戻り、地域活動をしながら内観面接を担当する。内観研修所運営の傍ら、飲食事業を展開している。

​2025年、AIを活用した内観実践について研究発表し、その可能性と懸念点について示唆した。その研究を基に「セルフレビュートレーニング」(LINEボットアプリ)を開発。現在、実証実験段階である。
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沖縄内観研修所 初代所長、​海のイスキア主宰
​平山 恵美子
​日本内観学会・日本内観研修所協会 会員
面接歴30年
資格:​認定内観面接士

 
研修所の台所から​

 

今回の大会テーマである「心の傷つきからの回復」という言葉に、自身がこの30年間取り組んできた実践が重なるように感じました。そこで今回は、「内観研修所の台所から」という視点で、私の体験や感じてきたことをお話しさせていただきます。

 学会では、集中内観における面接者の役割や在り方が長く議論されてきました。もちろん、内観者に寄り添う面接者の存在は大きいと思います。しかしながら、私自身が研修所を運営する中で強く実感してきたのは、食事・寝具・風呂といった生活環境の支えや、細やかな心配り、おもてなしの心が、内観者の一週間を支える重要な要素であるということです。

 一方で、内観法は日本の家制度を背景に発展してきた側面もあります。しかし時代の変化とともに「女性は食事を作り、家庭を守り、お世話をしていく」というスタイルが、これからの時代には合わないのではないかという声も耳にするようになりました。

 私たちの世代は、吉本伊信先生を陰で支えた吉本キヌ子先生を師として仰ぎ、その背中を追ってきました。また、私が集中内観を体験した各地の研修所でも、先生方の心配りとお姿が、現在の台所を預かる私の礎となっています。

 そのエピソードの一つに、ある研修所での集中内観をした時の事が思い出されます。なかなか内観が進まず、焦りと苦しさ、不甲斐なさで落ち込んでいたある日のことです。入浴時、庭の紫陽花が浴槽に活けられているのを見て、言葉ではない「想い」を感じました。それが先生からの無言の励ましとなり、再び心を整え、内観を続ける力となったのです。

 

 他にもそれぞれの研修所でそれぞれの在り方(心の込め方)がありました。掃除の行き届いた部屋、丁寧に整えられた寝具、きれいなトイレのタオルやゴミ箱。そうした“当たり前”のようにしていただいていることの全てが有難く心を打たれました。内観中は感性が研ぎ澄まされているので、その心遣い一つ一つが手に取るように分かり、身をもって裏方の仕事を教えてくれたような気がしました。

 

 中でも、食事の役割は非常に大きいものです。決して豪華な料理ではありませんが、研修所で出される一品一品に手間と真心が込められている気がいたしました。特に断食後のお食事には格別な配慮をしていただきました。他の内観者とは別に特別に作って下さったのだと思います。本当にありがたかったです。

 

 そして私自身も一番大切にしていることは、やはり食事作りです。私は研修所を開設する二年前に森のイスキアを主宰されていた佐藤初女先生との出会いがあり、研修所を開設することを決意しました。先生は人生に疲れた人や心が病んでいる人達に食を通して元気にしていくという活動をなさっていました。

 先生はよく「悩み苦しんでいる方々が、『美味しい』と感じてくれると生きる力が出てくるんだよね。食の命をいただくことで私たちの命が生きてくるのです。料理をするということは命を生かすことなんです」と仰っていました。だから全身全霊を傾けてお食事を作っていらしたのだと思いました。炊飯器のスイッチを入れるときすらも頭を下げられ祈っていました。今振り返ると屏風の前で合掌する面接者の姿と同じなのです。

 

 先生の「食と心」に関する哲学や心掛け、そして生き方そのものが今の私に大きな影響を与え、台所を預かる心構えを育ててくれました。

 

 ~中略~

 研修所の台所で大切にしているのは「当たり前のことに心を込める」ということです。それが出来ているかと問われると恥ずかしい限りですが、内観者への対応は全てに於いて真心を込めると言いうことに尽きるような気がします。「食べさせればいい、めんどくさいなぁ」という気持ちでは心が伝わらないのです。

 その方のお母さんが食を通して命を繋いでくれたように、内観者が手間暇という愛情を感じた時に、これまでの両親からの愛情にも気付くきっかけとなる一つが食事だと思っています。

 最近では、「やり方」ではなく、自分の心のあり方が何より大切だと感じるようになりました。私にとって研修所の裏方の仕事は、ひとつの「道」でもあります。

 

 『信あるかないか その日 その日の 日暮らしに問え』津村うの先生が遺された言葉が私の座右の銘ですが、今でも自問自答の毎日です。

 

 この30年間、右も左も分からない状態から研修所を続けてこれたのはキヌ子先生を始め、たくさんの研修所の先生方と内観者様のお陰だと思っております。この度は30年の節目にこのような機会を下さりありがとうございました。

 

※本稿は,第46回日本内観学会千葉大会シンポジウム「内観研修所を支えているもの」の内容に加筆修正したものである

沖縄内観研修所(平山)

TEL:098-948-3966
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